「机」なのか?「椅子」なのか?
大学時代に言語学の先生から聞いたお話です。
「ことばは単に物の名称を表す場合と、
意味(用途)を表す場合がある。」
ヨーロッパへの留学経験のあるその先生は、
小柄な方でした。
日本に比べ平均身長の高いヨーロッパのバー
には、浅く腰掛けるタイプの丸椅子が多かった
そうです。
長身な欧米の方が、床についた爪先でバランス
を取るように座る、スタイリッシュな高い椅子
です。
…日本人としても小柄だったその先生には、
高すぎて座面に届かなかったそうです。
「それは椅子という名前のついた物体だったけれど、
意味的には椅子ではなかった。
わたしにとっての椅子は(そのお店では)
ワインの空き箱だった。」
こんなことを思い出したのは、保育室にある
ピンク色の机がきっかけです。
この机、どういうわけか、子ども達がやたらと
座ったり、上に乗ったりするんです💦
普段、他の机には座ったりしない子も、
このピンクの机にはヒョイっと座ってしまうことが
あります。
なぜかしら?と、見ていると、この机、子ども用の
椅子の座面と同じくらいの高さなんです。
上述の言語学の先生と同じようなことが
起こっているんですね。
ピンクの机は、大人にとっては「机」でも、
子ども達にとっては「椅子」なのでしょう。
子ども達が座るのももっともです。
だって、彼らにとってそれは椅子なんだから。
でも、「座っていいよ。椅子と同じ高さだもんね」
という訳にはいきません。
では、どうするか?
それは、年齢や発達段階によって違います。
例えば4、5歳のお子さんなら、「これは
机だよ。降りて」と、繰り返し伝えます。
「ダメ❗️」「座らないで」(禁止)ではなく、
「降りて」と、今してほしい行動を具体的に
伝えるのもポイントです。
2、3歳のお子さんなら、使わない時には
目につかないところに片付けます。
声かけを理解したり、応じたりするのが
まだ難しいお子さんには、してほしくない行動
(机に座る)を誘発する刺激(座りたくなって
しまう高さの机)を、除去することも有効です。
これには、その行動を習慣として学習しまうこと
を防ぐ意味もあります。
他の場面でも、例えば思いが叶わなかった時や、
注意を引きたいときに、大人やお友だちを
叩いてしまうお子さんの場合。
どうやって伝えたらいいのか、自分を見て
もらうにはどうすればいいのか、わからなくて
手が出てしまうことがほとんどです。
「イヤだったんだね」「こうしたかったんだね」
と、気持ちを受け止め、代弁したり、
「ナデナデだよ」と手をとって撫でさせるなど、
具体的な行動を示すことで、望ましい
学習することができます。
ただし、叩いたら思いが叶ったということが
たびたびあると、叩くことがコミュニケーション
の手段として定着してしまうこともあります。
「叩いた」という経験をしてしまう前に
制止してあげたいですね。
子ども達が、大人から見て「よくない行動」を
する時には、大抵、何かしら理由があります。
また、「子ども」は、大人に比べ、経験も知識も
ずっと少ないですから、どうすればいいのか
知らなかったり、間違って覚えていたりすることも
あります。
大人とは違う見え方(ピンクの机が椅子に見えるなど)
をしていることもあります。
それぞれの「理由」に応じて、望ましい行動が
できるよう、支援していきたいと考えています。